Close but not the same (ページ3)

今日:5 hit、昨日:28 hit、合計:6,788 hit

CHART:Ⅲ ページ3

.

椿のテロ事件から半年が経とうとしている。

あれから２ヶ月後、TOKYO MERは正式運用を開始した。

私もMER総括官に任命され、上からの縛りが減った分これまでより格段にやりやすくなった。

課題はまだあるが、MER事業は一転順調に進んでいっている。
これからは各政令指定都市へと展開するべく計画準備していく段階だ。

仕事は順調だった。

しかし私は正直まだ気持ちの整理ができないでいた。

喜多見涼香。
喜多見チーフの妹である彼女の死はTOKYO MERにも私にも大きな影響を与えた。

あの喜多見チーフですら心を折られ一時期は自宅に引きこもっていたくらいだ。
今では喜多見チーフは何とか立ち直り、もう二度と彼女のような犠牲者を出さないようにとチームも一層決意を固くした。

しかし、言いようのない喪失感は何時までも消えることはない。

あの時喜多見チーフには発奮したものの、寧ろ私の方は時間が経つにつれて重くのしかかる。

それはMER医師として救えなかった命に対してなのか、または個人的な想いなのか。

ふとした時に彼女を思い出す。
少なからず彼女には好意を抱いていた。
だがその気持ちに名前をつけるには早すぎて、行き場を失ってしまった何とも言えない想いがずっと底に残る。

今日ももう彼女は居ないのにまた此処へ来てしまった。

我ながら情けない…。

自嘲して、踵を返したとき後ろから悲鳴が聞こえた。

｢誰か…助けてくださいっ！ドクター連れてきてっ！！｣

その場が一気に騒然となる。
と同時に私は反射的に声のもとへと駆けだしていた。